逆流性食道炎専門外来
のどの違和感・異物感、のどの詰まり感、のどがやける、むかつき、気持ち悪い、胸やけ、胸が苦しい、げっぷ、食べものがつかえる、息苦しい、胸がちりちりする、背部痛、血痰、咳、胃が張る、胃が苦しいなど、様々な消化器系の症状があるにも関わらず、検査で明らかな病気が発見されない状態を非びらん性逆流性食道炎(非びらん性胃・食道逆流症)と呼んでいます。
逆流性食道炎と診断され、治療を受けても、良くならない方がたくさんおられます。原因がよく分かっていないこと、日本の人口の少なくとも10%以上の患者数があると推測されること、なかなか良くならない、症状を繰り返しながら悪化する、仕事や生活がままならなくなるなど、深刻な状態に悩まされている方が多い疾患です。
なかなか周囲の理解を得られないこと、どうやれば良くなるのかを説明して治療する医療機関がないこと、希望がなくなり一生このままかもしれないと絶望して、生きる気力を喪失されている方が数多くおられます。そのため、「逆流性食道炎を治せるクリニック」が求められています。
そこで、当クリニックでは逆流性食道炎が発症する「しくみ」を明らかにして、しくみに基づき、患者様自らが症状を改善して制御していく「自立」を目標とした専門治療を行う「逆流性食道炎を治せる外来」を開設いたしました。
『あなたの逆流性食道炎は、治ります!』というコンセプトの元、過去12年間の専門治療の経験を蓄積しながら複数の医師の体制で診療を行っています。
明らかになった傾向と3つのグループ
専門外来を開設して12年が経過しました。診察をしていて、3つのグループの存在が明らかになってきました。
グループ1
20代から60代の方で、肥満傾向がある、夜の暴飲・暴食・生活習慣の乱れがある、などの原因で夜間や朝方に胸焼けを発症する従来から認められる「逆流性食道炎」。PPIの服用で食道炎症状が消失するグループ
グループ2
10代から50代の若年・中年者に認められ、PPIが効果のない、難治性の多種の症状を抱える「非びらん性逆流性食道炎」のグループ
グループ3
60代以降の中高年者なってから発症する、PPIが効果のない、難治性の多種の症状を抱える「非びらん性逆流性食道炎」のグループ
逆流性食道炎の基本的な分類と考え方
症状がある場合は内視鏡検査を行うことにより、明らかな逆流性食道炎を認める「食道炎型」と、逆流性食道炎を認めない「非びらん性食道炎型(NERD:ナード型)」の2つのタイプに分けることができます。
簡単にいうと、詳細な内視鏡検査を行って、病気や異常(主として逆流性食道炎と食道裂孔ヘルニア)があり症状を発症している方と、病気や異常が全くないのに症状を発症している方に分けられます。そのため症状のある方は、必ず詳細な内視鏡検査で「タイプ分け診断」を行います。
・食道粘膜の状態
・食道裂孔ヘルニアがないかどうか
・食道炎がないかどうか
・病理組織検査で好酸球などの集積がないかどうか
・胃粘膜の委縮がないか
・ピロリ菌感染がないか
・咽頭炎・喉頭炎がないか
などの確認をしてタイプ分けを行います。
10年間以上の専門外来の経験から、2つのタイプの混じった「混合型」の存在が明らかになってきました。
顕著な食道裂孔ヘルニアがないにも関わらず、食道炎を認めること、PPIで効果が充分でないこと、のどの症状がしばしばあること、やせた体型であることなどの特徴があります。難治性の炎症性声帯ポリープは、混合型の場合があります。
逆流性食道炎「食道炎型」
「食道炎型」は、「胃酸」が原因物質です。胃酸が食道内に逆流することで起こります。
内視鏡で食道炎を認めます。そして、食道裂孔ヘルニアがしばしば認められます。また、喉頭炎を認めることもあります。食道炎型は、20歳から60歳以上に渡り認められます。肥満(とくに太鼓腹)の方、夜の暴飲・暴食など生活習慣の乱れがちな方、胃がんの手術など腹部手術を受けた方など、胃酸の逆流防止機構の制御範囲を超えてしまった時、逆流防止機構そのものが破綻した時などに認められます。
40歳以降の方では、萎縮性胃炎を認め、ピロリ菌感染を合併している例が多いです。その場合、除菌治療を行うと、胃粘膜からの胃酸分泌が改善するため、食道炎症状が悪化するので、注意が必要です。
40歳以下で食道炎型の場合は、肥満や暴飲・暴食を伴い、ピロリ菌感染のない正常胃粘膜の例が多いです。
PPIで症状はほぼ100%消失します。
逆流性食道炎を認めない「非びらん性逆流性食道炎型(ナード型)」
10歳代から50歳代の若中年層に激増しているタイプです。食道炎型と同様あるいは、より多彩な症状(鼻からのどに垂れてくる感じ、口の中の苦み、舌の痛み、のどの違和感・異物感、のどの詰まり、胸の詰まり、胸焼け、げっぷ、背部痛、むかつき、気持ち悪い、息苦しい、咳、胃の膨満感など)を呈します。
しばしば、食欲がない、気持ち悪い、嘔吐、気持ちの落ち込み、夜眠れない、不安が強い、落ち着かない、息苦しいなどの心の症状を伴います。内視鏡検査では「食道炎を認めない」のが特徴です。また、60歳代以降の高年層、特に定年以降の方に増加しており、若・中年層と高年層の二峰性のピークを呈します。
内視鏡で食道炎を認めません。食道裂孔ヘルニアは認めず、喉頭炎も認めません。見える異常、観察できる異常がないにも関わらず症状があります。
「非びらん性逆流性食道炎:ナード型」は「食道炎型」と比較して症状が多彩であることが多く、心の不調を伴ったりします。そして、西洋的薬物治療に抵抗性で症状がなかなか改善しません。
ナード型の原因物質は胃酸ではありません。胃酸以外の「何か」が原因で起こります。そのしくみが現代医療ではよく分かっていないため、治りにくい、治らない、そして、薬が効きにくいのです。 ナード型を治すためには、病態・しくみの理解(なぜ発症するのか)、どうすれば改善・治癒するのかの理解、しくみの運転(リセット医療)の練習・習慣化が必要となります。
ナード型の診断
内視鏡検査でみえる異常、観察できる異常がないにも関わらず、逆流様症状(のどの違和感・異物感、のどのつまり、胸のつまり、胸焼け、げっぷ、背部痛、むかつき、気持ち悪い、息苦しい、咳、胃の膨満感など)がある場合は、ナード型と診断できます。
ナード型の治療の考え方
- 薬物療法 西洋薬、漢方、安定剤・抗うつ薬
- 食事療法
- 鍼灸・整体・カイロプラクティスなど
- 認知行動療法(不定愁訴外来)
認知行動療法は、発症のしくみからアプローチする治療法で、技術を習得して習慣化した方は、症状が改善して、薬物療法が必要なくなります。
「混合型」
混合型は検査をすると食道炎型であるのに、PPIで充分な効果がないグループです。顕著な食道裂孔ヘルニアなど逆流防止機構の破綻がないにも関わらず食道炎が起こります。
また、夜間など臥位(横になった状態)だけでなく、昼間の座位・立位(体を起こした状態)でも、逆流症状が認められるのが特徴です。これは、まずナード型が先行して発生しているのが原因です。「情報(脳の疲労)」「緊張」「感情」の蓄積が原因で、腹圧が異常亢進します。
混合型の患者様は、上腹部が異常に緊張して硬くなり、手指で押しても奥に入らなくなります。腹圧が異常亢進することで、逆流防止機構が恒常的に破綻し、常に胃酸を含んだ胃液が多量に食道内に逆流するようになります。
そのため、食道炎を併発するので、PPIを服用しても充分な効果がなくなります。つまり、PPIはある程度逆流防止機構が機能している時に充分な効果を発揮するわけです。そこで「混合型」では、PPIを服用しながら、リセット治療を行います。
リセット治療で、「しくみの運転」を練習・習慣化することで、腹部の異常緊張が改善します。すると腹圧が低下するので、逆流防止機構が正常に回復し、胃酸を含んだ胃液の逆流が止まり病態が消失するので症状は消失・治癒します。難治性の炎症性声帯ポリープの方は混合型の可能性があります。
当クリニックの治療実績
2006年4月から2021年3月まで、1812例の胃・食道逆流症の方を診療しました。
治療年度 | 治療数 |
2006年度 | 86例 |
2007年度 | 143例 |
2008年度 | 167例 |
2009年度 | 186例 |
2010年度 | 112例 |
2011年度 | 136例 |
2012年度 | 132例 |
2013年度 | 128例 |
2014年度 | 147例 |
2015年度 | 87例 |
2016年度 | 107例 |
2017年度 | 126例 |
2018年度 | 116例 |
2019年度 | 87例 |
2020年度 | 52例 |
食道炎型とナード型の内訳は、食道炎型が497例(27.4%)、ナード型が1315例(72.6%)でした。
症状改善率は、食道炎型は、完全消失が497例中489例(98.4%)、そして、かなり良くなった6例を加えた症状改善率は、497例中495例(99.6%)となりました。
この結果から、食道炎型は、PPIを中心とした薬物療法でほぼ完全に症状をコントロールできることが分かります。
一方、ナード型は、完全消失は1315例中1126例(85.6%)、そして、かなり良くなった148例(11.3%)を加えた症状改善率は1315例中1274例(96.9%)となりました。
きちんと通院された方は、症状は改善して完治していますので、「脳と自律神経のしくみ」をマニュアル運転する「技術」「練習」「習慣化」を身につけて、「しくみを運転する感覚」を養うまで通院を継続することがポイントです。逆流性食道炎専門外来では、ナード型の方には、症状の深刻さに合わせて、漢方治療や安定剤を併用しながら、発症のしくみに基づいて、「しくみの運転」=「リセット治療」を取り入れ、根本的に治癒する治療を行っています。
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